第3回テーマ
True Diversity
秩序の再考

General review
審査総評

五十嵐 久枝

有限会社イガラシデザインスタジオ / 武蔵野美術大学教授

今回は、これまでで最も多くの議論が交わされた審査会となった。その要因として応募数の増加が挙げられるが、何よりも「多様性」というテーマの真の意味を探究するという趣旨のもと、多岐にわたる発案が寄せられたことが大変興味深かった。審査員それぞれの評価軸や価値判断にも独自の特性が表れ、活発な意見交換が行われる中で審議が進められたことは、大きな意義をもつ審査会であったといえる。一方で、環境を変化させたり特徴を持たせたりする試み自体は評価できるものの、その環境がどのように有効に機能するのかがはっきり見えてこない作品が散見された点が気にかかった。多くの提案が静的な個人活動に焦点を当てており、自発的な複数人による動的な活動がその先に生まれるのかという点において、関係性の深まりや広がりが足りないと思われる。個人の尊重と公共の場における交わりの双方が、「働く」「生きる」ことの本質において重要であると考える。今回も、ビジュアル表現の完成度は高い作品は多く、アップデートされた技術的な工夫や、オリジナリティのある表現が見られた点は評価できる。今後はさらに内容を精査し、的確に意図が伝わる表現を期待したい。

猪熊 純

成瀬・猪熊建築設計事務所 / 芝浦工業大学教授

難易度の高い課題であったにも関わらず、これまでで最も多くの応募を頂き、提案のレベルも高いものが多かった。多様性という言葉は、今やテレビなどのマスメディアからSNSに至るまで散見されるが、具体的な課題を見つけ、建築的なアイディアによってそれを解決するのはなかなか難しい。今年の特徴は、そうした中でも、課題も提案も具体的なものが多くあったことだ。地域・業種・人など、具体的な対象をしっかりと定め、多彩な課題を掘り起こし、丁寧に向き合い、きちんと答えを出そうとしているものが複数案あった。建築は、常に具体的なものに向き合いながら思想を高めてゆく職業だが、今回応募された提案は、難しい課題に真摯に向き合う中で、建築らしい解決に到達しているのが素晴らしかった。

塩田 健一

株式会社商店建築社 月刊商店建築 編集長

学生の皆さんの熱心な参加のおかげで、今回で3回目を迎えることができました。回を重ねるごとに、応募数が増加し、応募作品のクオリティーも上がっています。緻密にコンセプトやストーリーを練り上げたり、模型を制作したりと、審査員一同が本気で向き合いたくなる、エネルギーを注いだ応募作が多数ありました。一方で、今回の課題に対して熟考し、課題にストレートに応えようとした案が少なかったようにも感じました。応募作業を前半と後半に分けるとするなら、「前半(インプット)」は、そのアワードのテーマや課題を咀嚼し、解決すべき問題を探り当て、どのような方向性で解決へ導いていくかを考える作業。「後半(アウトプット)」は、その解決策を、具体的な建築や空間として立ち上げていく作業です。前後半のどちらかがとてもよくできている応募作は多かったのですが、前後半の両者が高いレベルで融合した案は数案でした。そうした応募作が、より増えてくることを、さらに楽しみにしています。

稲田 晋司

株式会社フロンティアコンサルティング 執行役員 デザイン部 部長

今年のテーマ「True Diversity ~秩序の再考~」は、広い解釈を許すものであり、寄せられた作品も実に多彩だった。企業活動の枠を超え、社会や自然の在り方にまで視野を広げた提案も多く、それぞれに深い関心をもって審査が行われた。とりわけ、現代社会が多様性という言葉に託す期待と、その裏に潜むジレンマや矛盾に果敢に向き合った作品は印象的であり、このテーマの意義を改めて実感させられた。多様性をただ受け入れるだけでなく、人々が自らの手で秩序へと昇華していくために、ワークプレイスという場が、違いをどう包み込み、響き合わせていけるのか。今回寄せられた作品には、そんな未来への示唆が息づいていたと感じた。

Prize-winning works
入賞作品

『野ざらしのワーキングコミュニティー』

田中紘大さん

鹿児島大学大学院理工学研究科工学専攻建築学プログラム

大阪万博の華やかさとは対照的に、都市の中で取り残されてしまった路上に暮らす人びとと、彼らが集まるエリア(公園)に意識を向けたその勇気と挑戦に、深い敬意を表したい。路上の人びとにとってワークプレイスは、生きていくための土台を築く「再生の場」となり得るものであり、その着眼点に強い感銘を受けた。本入賞作品は、単なる宿泊施設にとどまらず、生活に欠かせない「衣食住」と、それに関わる仕事をワークプレイスに結びつける構想である。働く糸口を見出すためのワークショップの場を組み込み、生活の再構築と社会との接点を同時に創出している点が高く評価できる。また、建物1階部分を開放的に計画することで、内部の秩序と賑わいが外部へと自然に溢れ出し、やがて人びとの往来を誘発し、路上生活者と社会との隔たりを解消していく構想が見て取れる。このように、異なる背景をもつ人びとが交わることで、既成の枠に収まりきらない自由な商いやサービス、人間関係が生まれる可能性を秘めており、多様な共生のあり方を感じさせる。(有限会社イガラシデザインスタジオ / 武蔵野美術大学教授 五十嵐 久枝 氏)

『谷戸と生きる離れ / 庵』

小林大馬さん 入学壮太郎さん

法政大学大学院デザイン工学研究科建築学専攻

人の活動が巨大になった現代においては、人と自然が対立的な位置付けになってしまった。本来CO2削減のための太陽光発電さえも、規模や設置位置によっては環境破壊となってしまう。そうした時代において、この作品はそれでも、もう一度里山的な共生関係を編み直そうとする、静かで意欲的な作品である。都市と自然の間に位置する地域に目をつけ、細やかにランドスケープを調整し、斜面における水の流れを少しだけ調整し、建築との関係を調整することで、自然と建築の関係性を見事に再構築している。唯一気になったのは、都市の中心市街地との関係をどのように考えているかが読みとれなかったことだが、全体として極めて高いレベルの提案であった。(成瀬・猪熊建築設計事務所 / 芝浦工業大学教授 猪熊 純 氏)

『交わり結便局』

下田楓夏さん 滝浦啓叶さん

工学院大学大学院工学研究科建築学専攻
東京都立大学大学院都市環境科学研究科建築学域

郵便局という、日本全国に必ず設置されている施設に注目した点が、秀逸である。地方の過疎地域では、コンビニも無いことも珍しくないが、郵便局は必ずある。ここを、これまでの郵便局(という働く馬)としての機能にとどまらず、集会・体験などができる場として再構築するという提案は、一見小さな試みであるが、日本中に2万件以上あることを考えれば、大きなインパクトを持つ提案といっても過言ではない。提案では営利目的でない側面を強調していたが、小さな飲食や小商のために、安く場所を貸すなど、人が集まる要素を掛け合わせるような取り組みもあって良いように思う。(成瀬・猪熊建築設計事務所 / 芝浦工業大学教授 猪熊 純 氏)

奨励賞

『PLATFORM FOR DIVERSITY』

山内あす美さん

立命館大学大学院理工学研究科環境都市専攻

社会的にダイバーシティ&インクルージョンが推進される中、本作品は、オフィス空間におけるインクルーシブデザインを新たな視点から探求している点が評価できる。従来、この分野の取り組みは主として家具によることが多かった。しかし本計画では、オフィスをランドスケープ的に捉え、空間全体の構成や動線、場のグラデーションを通じて多様な利用者の在り方を受け止めようとする姿勢が感じられる。特に、マイノリティのワーカーが抱える障壁に対して限定した解決策ではなく、誰もが自らの活動を自由に展開できる「余白」を備えているのが印象的である。概念的な試みとして、空間デザインが多様性をどのように包摂できるのか、実際のスケールで体験してみたいと思える作品である。(株式会社フロンティアコンサルティング 執行役員 デザイン部 部長 稲田晋司)

『COWorking Place』

小針一真さん 小野翼さん
堀雄登さん

新潟大学大学院自然科学研究科環境科学専攻社会基盤・建築学コース

多様性を考え直すということは、これまで自明だと思われていた「私たち/彼ら」の線引きを、改めて吟味し直すという試みです。人間は、多様性について考える時、「私たち」の内側だけで多様性を考えます。この作品「COWoking Place」は、家畜としての牛を「私たち」の内側に参入させることで秩序を再編しようとしています。その意味で、今回の出題に真摯に向き合っていると感じました。「牛乳」「牛肉」という製品の背後でブラックボックス化されている飼育や加工の過程を一般の人たちに開放し、食育や酪農体験、そして、命の大切さを学ぶ機会につなげている点が、説得力がありました。にもかかわらず、決して「説教臭さ」がなく、おおらかでダイナミックな建築とランドスケープが、人々に「訪れてみたい」という純粋な気持ちを喚起しそうで、その点も魅力的でした。(株式会社商店建築社 月刊商店建築 編集長 塩田健一)

1次審査通過者

『むかしむかし、あるところに』

奥瑞貴さん

武庫川女子大学大学院建築学研究科景観建築学専攻

『桜島アグリエーション 農業サブスクによる廃校活用の提案』

早坂秀悟さん 木戸なぎささん 畑中清尊さん

鹿児島大学大学院理工学研究科工学専攻建築学プログラム

『知を紡ぎ、言葉を重ねる散歩道』

小林来未さん 野間晴陽さん

関東学院大学大学院工学研究科建築学専攻

『Good Dogtor』

赤澤直樹さん 阿部健吾さん

新潟大学工学部工学科建築学プログラム

『引潮 -潮位が織りなす仕事空間の再編-』

玉田尚己さん

愛知工業大学工学部建築学科

『共生の町』

塩原歩未さん

工学院大学大学院工学研究科建築学専攻