第2回テーマ
育つ、育てる

General review
審査総評

五十嵐 久枝

有限会社イガラシデザインスタジオ / 武蔵野美術大学教授

現在の社会において「人を育てる」ことは、ますます重要視されています。これは経済的な視点にとどまらず、社会的・倫理的な観点からも非常に重要な「鍵」として考えられます。今回の審査では、「人が育つ、人を育てる」というテーマに対する多様な提案が見られ、大変興味深い審査となりました。特に、ただ「きっかけ」を与えるだけでなく、具体的に育つ過程を想像させる視点や、他者とのつながりや関係性に関する考察が大きな論点となり、評価を分ける要因となりました。正解は一つではなく、審査員の間でも評価が大きく分かれる作品がいくつも見受けられ、そこに現代の多様性が反映されていることを感じました。今後も一人で完結する成長にとどまらず、他者との関わりを意識し、このテーマについて考え続けていってほしいと願っています。

猪熊 純

成瀬・猪熊建築設計事務所 / 芝浦工業大学教授

今回が2回目となったが、昨年にも増して力の入った提案が多かったように思う。特に今回は、「育つ・育てる」というテーマもあってか、従来の「働く」イメージを超え、社会全体のイメージにつながるものが多かった気がする。本来、人それぞれの営みは、社会全体と密接に繋がっているものだが、それが可視化されないくらい、社会が大きくなってしまった現代で、あらためてそれを紡ぎ直すことの重要性を、私自身再認識させられた。一方で、誰を・何を育てるのか、といった具体的な視点については、提案の精度に差があったように思う。今回入賞した提案はどれも、働くこと・育てることを含む営みが、地域や職種との関係の中でしっかりイメージできるものになっており、そこが評価された。来年もこのコンペが続くようであれば、応募する皆さんは、こうしたことを意識して欲しいと思う。

塩田 健一

株式会社商店建築社 月刊商店建築 編集長

エネルギーが注がれた丁寧な応募作品が多く、非常に見応えがあった。二次審査では、審査員が実際に顔を合わせてじっくり議論し、納得のいく充実した審査ができたと感じている。一方で、応募作品全体を通して、「人間が、学び、気付き、成長し、育つために、どのような時間・場所・出来事が必要なのか」について根本から突き詰めて考えた案が非常に少なかったように感じた。商店街に向けて開かれていたり、働いている大人の姿が見えたり、託児所が併設されていたり、そうしたことは一つの案ではあるが、「人が育つ場」というのは、それだけではない。明るく楽しいコミュニケーションだけが「人が育つ場」というわけでもない。挑戦、失敗、内省、後悔、孤独といった要素も必要だろう。手近なところにある案を安易に掴むよりも、粘り強く、「この出題内容によってしか辿り着けない案」にまで深くおりていってくれることを、来年以降も期待している。

稲田 晋司

株式会社フロンティアコンサルティング 執行役員 デザイン部 部長

昨年に続き、第二回となった本競技では、「育つ、育てる」というテーマに対する多様な解釈が見られ、非常に興味深い作品が数多く集まりました。応募数が前回を上回ったことは、このテーマが多くの方々に関心を持たれている証拠であり、ご応募いただいた皆様には心より感謝申し上げます。作品にはオフィスを中心に据えたものから、生活の一部としてオフィスを捉えたものまで、幅広いアプローチが見られました。審査では特に、展開の広がりを感じさせる作品や議論の余白がある提案が高く評価されたと感じています。また、働く場における「育つ、育てる」の価値交換の輪に自ら加わってみたいと思わせる作品も多くありました。実在する場所を計画地とした作品では、周辺環境と計画の結びつけ方により評価が分かれたため、この点を参考にさらに発展的なご提案を次回に期待いたします。

Prize-winning works
入賞作品

『すくすく給食センター』

安原諒さん

工学院大学大学院工学研究科建築学専攻

地域の給食センターが、フリースクールと近隣住民のための食堂も兼ね備えるという提案には、働く人の離職率の問題やフリースクールに通う子供たちの要望に応える素晴らしさがあり、大変感銘を受けました。ワークプレイスの上に設けられたブリッジのような見学通路は、給食をつくる人が子供たちの様子を見守り、子供たちは給食を楽しみに待ちながらものづくりへの興味が育まれる「橋渡し」としての役割を果たすことでしょう。同じ給食を食べること自体がコミュニケーションの始まりであり、「ごちそうさまでした」「美味しかった」という一言が、食べた人同士や調理を担当した人とのつながりを生み出すからです。
最近では働き方が多様化しているように、学び方も多様化しています。この場所は、日々のタイムテーブルに合わせて「食べたい」「会いたい」「学びたい」「話したい」「調理の様子が見たい」といった目的に応じて訪れることができる場です。また、子ども食堂のように、一人暮らしの高齢者もここで誰かと一緒に食事を楽しむことができるでしょう。地域の人々が元気に育つ「すくすく給食センター」の取り組みは、とても魅力的であり、期待が持てるものだと感じています。(有限会社イガラシデザインスタジオ / 武蔵野美術大学教授 五十嵐 久枝 氏)

『開かれた個性 - 塔から生まれる学びの端緒 - 』

一杉健洋さん

早稲田大学創造理工学部建築学科

アトリエやスタジオと住居が混在する新しい共同体を構想した、アーティストの住まいの提案である。塔とそれに付随する箱状のボリュームというシンプルな構成原理をベースに、これを巧みに組み合わせることで、内外が連続する豊かな空間を生み出している。「アーティスト」「創造性」「セミパブリック」など聞こえの良い言葉が並び、理想に寄り過ぎた提案になりかねないところを、スバルの工場や大学、小学校など学びの場が点在する住宅地に敷地を設定することで、現実的な計画として昇華させている。非常にバランス感覚に優れた提案である。(成瀬・猪熊建築設計事務所 / 芝浦工業大学教授 猪熊 純 氏)

『まちを縫う路』

片岡晃太朗さん 川上玄さん

近畿大学大学院総合理工学研究科建築デザイン専攻
大阪工業大学大学院 工学研究科 建築・都市デザイン工学専攻

中高層のオフィスビルを空中でつなぎ、働く場所の上層階のすぐそばを子供たちが通過する関係性を創り出すアイディアである。対象は小・中学生および高校生としているが、保護者なしで都会を自由に歩くことを想定すると、中学生・高校生が主な対象になるだろうか。意図的かどうかは不明だが、パースにはランドセルを背負った子供がほとんど描かれておらず、それがこのアイディアのリアリティを高めている。法的および費用的な実現性は高くないが、豊かな社会関係を感じさせる楽しい提案であり、同時に自営業が減り、働くことが身近でなくなった現代社会の問題を改めて気づかせてくれる鋭さも併せ持っている。(成瀬・猪熊建築設計事務所 / 芝浦工業大学教授 猪熊 純 氏)

奨励賞

『自らが輝く~絵画から生まれる偶発的で多様な空間~』

山形柊太さん

立命館大学理工学部建築都市デザイン学科

人が育つのは、どんな時か。予期せぬトラブルや失敗、あるいは意外なところからやってきたチャンスに遭遇した時ではなかろうか。とすれば、人が育つ契機を含んだ場所を、作為的に合理的に計画主義のアプローチでつくることには限界があるかもしれない。そう考えると、機能性とは全く異なる造形原理をどこからか召喚する必要がある。その試みの一つとして、エネルギッシュでカラフルな絵画作品を引用している。応募作の中で、こうしたアプローチは唯一だったと思う。「自らが輝く」という題名を持つ作品を選定したことも秀逸である。なお、審査時には、実際のカンディンスキーの作品には淡いグラデーションの部分があり、それを空間で再現しても良かったのではないかとの意見も出た。(株式会社商店建築社 月刊商店建築 編集長 塩田 健一)

『輪がみのる』

高橋完知さん 関野結衣さん
水野奈苗さん 伊佐恩雅さん

神奈川大学建築学部建築学科まち再生コース
神奈川大学建築学部建築学科住生活創造コース

オフィスと保育園から成る複合施設の計画ということで、本競技のテーマ『育つ、育てる』をもって比較的常套的な印象も受けたが、計画内容の理解がスムーズに行え、円形の建物の中心とした賑わいや利用者の動きがイメージできる作品であった。また、模型を成果物の中心に据えたことが審査員の心に留まった。
CADやCGの普及によりデジタル上でのスタディが優位になっている昨今において、模型によるスタディや表現の大切さと、魅力の伝え方を考えさせられる作品であった。(株式会社フロンティアコンサルティング 執行役員 デザイン部 部長 稲田 晋司)

1次審査通過者

『知脈の洞窟』

大竹平さん

京都大学大学院 工学研究科 建築学専攻

『ちえの年輪をすすむように - こどものためのオフィス -』

川井智大さん

北海道大学大学院工学院

『チャレンジ商店街 - 人とともに育ち、商店街とともに育てる - 』

松岡達哉さん 萬家隆介さん 杉本晴太さん

広島大学大学院 先進理工系科学研究科

『創作の共働体 - 大田区町工場における、「減築」と「挿入」による『仲間まわし』の可視化と再構築 - 』

山口篤さん 阿部凌平さん

早稲田大学創造理工学部建築学科

『終点駅の再々開発 - 「職・住十繋・創 一体」の新たなオフィスビル』

須田峻哉さん 石原佑樹さん 郷司萌恵さん 井川怜央菜さん

信州大学総合理工学研究科工学専攻建築学分野
龍谷大学政策学部政策学科
龍谷大学経営学部経営学科

『New Office Street - まちを育て人が育つ商店街オフィス - 』

本岡夏実さん

武庫川女子大学大学院建築学研究科建築学専攻

『Eureka Pods Complex』

渡邊隆之助さん 井上円翔さん

立命館大学院理工学研究科環境都市選考建築都市デザイン
立命館大学理工学部建築デザイン学科

『RAKUMACHI RAKUZA』

和田明花さん 藤村悠生さん

名城大学大学院理工学研究科建築学専攻